2019年05月21日

猫の歯肉口内炎

~手術の画像が含まれますのでご注意ください~

以前はリンパ球プラズマ細胞性口内炎・レッドマウス・口峡炎などとも言われましたが、

現在では歯肉口内炎(尾側口内炎)という名称が一般的な歯肉・ノドの炎症性疾患で、

猫ちゃんにみられる非常に厄介な病気です。

よだれや口臭が強くなり、次第に痛みで食欲が低下してしまいます。

原因として、ウイルス感染症や細菌感染・免疫異常などが考えられていますが、

どれか1つが原因ではなく、それらが重なり合って発症していると思われます。


<診断>
肉眼所見が重要ですが、まれに病理組織検査が必要になることもあります。

単なる歯周炎や好酸球性肉芽腫などとの鑑別が重要ですが、

とくに扁平上皮癌という悪性腫瘍との鑑別が重要になります。


ノドがボコボコと腫れてしまっている猫ちゃん
ノドまで及んでいる炎症  

別の猫ちゃん。この子はそれほどボコボコしていませんが、ノドが腫れて赤く炎症を起こしています。
ノドの炎症 

歯茎の炎症。
歯茎の炎症



<治療>
内科的な治療として、抗生剤・痛み止め・ステロイド剤・免疫抑制剤・インターフェロンなどの投与や、

サプリメント(脂肪酸製剤やラクトフェリンなど)の投与が行われます。

しかしいずれも完治は難しく、継続的な治療が必要になります。

ステロイド剤は効果的ですが、長期的な使用による副作用の可能性や次第に効果がなくなってくる可能性があります。

現時点では、全顎抜歯(全ての歯の抜歯)や

全臼歯抜歯(犬歯より奥の歯すべての抜歯)が治療として推奨されています。

とくに全顎抜歯が最も効果的と言われていますが、全臼歯抜歯と治療成績が変わりないとの話もあります。

当院では最近は全顎抜歯を推奨していますが、

全顎抜歯の場合、犬歯部位で下あごの骨の骨折を引き起こす可能性もあるため、

その子の状態に応じて全顎抜歯もしくは全臼歯抜歯どちらを行うか、検討していきます。

歯根の取り残しがあると歯肉口内炎が治らなくなってしまうため、

当院では歯科用レントゲンを使用して歯根の取り残しや

骨の異常がないかを確認しながら抜歯を行います。


レントゲン画像
猫の歯肉口内炎 猫の歯肉口内炎


ただし抜歯はそう簡単ではなく、

歯茎を顎の骨から大きく剥がして顎の骨をドリルで削り、

歯の根元(歯根)を露出させる必要があります。

歯の根元はなかなか丈夫なので、そこまでやらないと抜歯できません。

(そう簡単に抜けたら普段困ってしまいますよね)


顎骨のから歯茎を剥がした状態

猫の歯肉口内炎 猫の歯肉口内炎


処置後、しばらく食事を取れなくなるのでは?

というご心配が出てくると思いますが、

痛み止めを使用することにより、ほとんどの場合は翌日には食事を取れるようになります。

しばらくの間は軟らかい食事にする必要がありますが、

抜歯部位の傷が治ったら硬い食事もとれるようになります。

過去に1件だけ、数日間口をに気にして食事をほとんど食べなくなった子がいましたが、

1週間ほどで本来の食欲に戻りました。


なお過去のデータでは、このような抜歯により

60~80%程度の子が著しい改善が見られる~完治、

20~30%程度の子は症状が改善するも継続した薬物治療が必要、

5~10%程度は改善が全く認められない、と報告されています。

当院でも全顎抜歯(全ての歯の抜歯)を行うようになってからは

歯肉口内炎の改善率がかなり高くなりました。

ただし、処置時間(麻酔時間)は3時間以上とかなり長時間になります。

その分、処置費用も高額になってきます。


全臼歯抜歯後、3週間ほどの猫ちゃん。

歯茎はまだ少し赤いですが、ノドの腫れは治まってきています。

全臼歯抜歯後。炎症が治まってきています 


同じ猫ちゃんの1年後です。

もう歯肉炎は治まってきれいになっています。

 猫の歯肉口内炎


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Posted by 駿河どうぶつの病院 at 17:14│Comments(0)口腔・歯科
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