2019年07月01日

僧房弁閉鎖不全症

~僧房弁閉鎖不全症~

心臓の中にある僧房弁という弁の異常で、

ワンちゃんで非常に多くみられる病気です。

僧房弁という心臓の内側を仕切る弁(左心房と左心室を仕切る弁)に異常が起き、

心臓内で血液が逆流してしまう病気です。

軽度の場合には症状はほぼありませんが、

中等度になると咳や運動不耐性(あまり運動をしなくなる)、

重症になると、咳・運動不耐性に加え、肺に水が溜まってしまう肺水腫という状態に陥り、

呼吸困難により生命の危機になります。

また心臓が非常に大きくなると心臓破裂の危険性もあります


<診断>

心臓の音を聞くだけでほぼ診断できますが、

病気の進行度・他の異常の有無を把握するために、

レントゲン検査・心電図検査・超音波検査などを行います。

レントゲン検査は肺や肺の血管の異常を確認しやすい検査であり、

心電図検査は不整脈の検出に有効です。

弁の異常・血液の逆流・心臓の運動性などを評価するためには、超音波検査がもっとも有効です。


少しだけ心臓が大きい犬の胸部レントゲン画像
(黄色の〇の中が心臓) 
心臓が少しだけ大きい犬の胸部側面レントゲン画像echo7 

心臓が少しだけ大きい犬の真正面から見た胸のレントゲン画像echo8 

心臓が非常に大きくなった犬のレントゲン画像
心臓が非常に大きくなった犬のレントゲン画像

心臓が非常に大きくなってしまった犬の真正面からの胸部レントゲン画像


心臓の超音波検査画像(赤丸の中がぶ厚くなっている僧帽弁)
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カラードップラー法での心臓超音波検査
(黄色や緑色は血液の異常な流れの目印)
echo3

このように超音波にて血管や心臓の内腔、血液の流れの速さなどを計測して、

重症度を判定し、薬剤の種類や量・定期健診の間隔などを決めていきます。

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echo6 


僧帽弁閉鎖不全症の悪化による心房破裂
(心臓の周りに血液がたまっていて、心臓内に血栓が見られる(黄色の〇))
echo10



<治療>

以前はACE阻害薬といわれる血管拡張薬での治療が中心でしたが、

最近ではピモベンダンという強心剤を比較的軽い段階から使用する方法が推奨されてきています。

病気の進行により、強心剤や血管拡張薬に加え、利尿剤や降圧剤などを併用することが一般的です。

ただし、利尿剤により腎臓に負担がかかってくることもありますので、

腎臓の定期的なチェックや薬剤の調整が必要になります。

薬での治療はあくまで心臓にかかる負担を減らす・進行を遅らせる事が目標であり、

弁の異常が治るわけではありません。

根治的な治療として、手術での僧房弁形成術という手段があります。

悪くなった弁を手術で直接治す方法ですが、

当院では実施不可能であるため、ご希望の方には手術のできる施設をご紹介いたします。

(手術ができる動物病院は日本中で数件程度)

ただし、手術のリスク(90%程の成功率)および、

高額な費用(施設により変動あり、だいたい100~200万円)を承諾して頂く必要があります。


当院では、身体検査・レントゲン検査・超音波検査・血圧測定などを行い僧帽弁閉鎖不全症を診断後した後は、

薬での治療と手術での治療を説明、手術をご希望の方には横浜や名古屋の専門施設をご紹介しています。

薬での治療(内科的治療)をご希望の方には、当院で飲み薬を処方して、当院での定期的なチェックを行っていきます。


  
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Posted by 駿河どうぶつの病院 at 20:37Comments(0)病気・治療の説明循環器疾患

2019年07月01日

リンパ腫

リンパ腫はリンパ球という体の中の免疫細胞が腫瘍化したもので、

身体の中のどこにでも発生しうる腫瘍です。

とくに身体のリンパ節や脾臓・腎臓・消化管に発生することが多く、

猫では鼻の中のリンパ腫も少なくありません。

その他に当院では背骨や心臓に発生したリンパ腫も診断・治療をしています。

また、リンパ腫が1カ所だけ確認できたとしても、

その時点であちこちにリンパ腫の細胞が流れてしまっている状態であることが多く、

外科手術などの局所的な治療方法はあまり行われず、

抗がん剤などの全身療法で治療される場合がほとんどです。

積極的な治療をしない場合、

犬の多中心型リンパ腫であれば、生存期間は約 1ヶ月が平均的といわれています。

皮膚のリンパ腫はゆっくり進行していくこともありますが、皮膚のかゆみや痛みに悩まされることが一般的です。

消化器に発生したリンパ腫では嘔吐や下痢などの症状が出て、体調不良が急速に進行していきます。


リンパ腫の細胞診検査画像
リンパ腫の細胞診画像 


<診断>

細胞診検査で診断を行うことが一般的です。

身体の表面のリンパ節や皮膚が腫れている場合には、

その部位に細い針を刺して細胞を採取して確認します(細胞診検査)。

内臓に出来ている場合には、身体検査・レントゲン検査や超音波検査などで

腫瘍が疑われる部位を発見し、その部位に細い針を刺して細胞診検査を行います。

まれに細胞診検査だけでは診断がつかないことがあり、

その場合には、麻酔をかけて組織を採取して調べる病理組織検査が必要になることもあります。

また、脳や脊髄に発生することもありますが、この場合には診断が困難になることもあります。


リンパ腫が腎臓に出来て、腎臓が腫れている猫のレントゲン画像(赤丸の部分が腎臓)
 

脾臓にリンパ腫ができた犬の超音波検査画像

心臓に発生したリンパ腫の画像。
右心房という部位がとくに腫れています
(赤丸の中の白くなっている部位が右心房のリンパ腫)
 

LGLリンパ腫という特殊なタイプのリンパ腫
LGLリンパ腫

モット細胞型リンパ腫という、非常に珍しいタイプのリンパ腫
モット細胞(mott cell)型リンパ腫



<治療>

上述の通り、抗癌剤治療が一般的です。

抗癌剤治療の効果と副作用は比例する面もあり、

強めに薬を使えば抗がん剤治療の効果は出やすい反面、副作用も出やすくなります。

抗癌剤を弱めに使えば副作用は弱まりますが、腫瘍を抑える効果も弱くなります。

最近では副作用を抑えるいい薬も増えてきていますので、

ほとんど副作用が出ない子もいます。

また、腸の一部にリンパ腫ができている場合には、手術で腸の部分的な切除を行うこともありますし、

鼻のリンパ腫の場合には、放射線治療を行うこともありますが、

静岡の場合、立地的に放射線治療が難しくなってしまいます。


<当院での治療>

当院ではリンパ腫に対する抗がん剤治療を積極的に行っており、

同時に副作用軽減のため、嘔吐止めや下痢止め・整腸剤などの処方を行い、

極力副作用を軽くする、もしくは出なくなるように努力しています。

抗がん剤投与だけではなく、

自宅でのケア・看護や抗がん剤投与後の起こりうる体調不良や異常の判断の仕方などの説明にも力を入れています。

食欲がない場合には少しでも食べやすいような食事の提案をできるように、

様々な種類の栄養食を準備して、

またチューブを使った栄養・投薬方法も提案できるようにしています。

もちろん、積極的な抗癌剤治療だけではなく、

弱めの抗がん剤治療を行う場合や、抗癌剤治療を行わない場合などでも、

それに対してできうる限りの対応をしていきます。

これまでに、多中心型リンパ腫(体のあちこちのリンパ節が腫れてしまうタイプ)、

脾臓のリンパ腫、腎臓のリンパ腫、消化管のリンパ腫、

鼻のリンパ腫、ノドのリンパ腫、心臓のリンパ腫、肺のリンパ腫、皮膚のリンパ腫、

背骨・脊髄のリンパ腫、モット細胞型リンパ腫(mott cell lymphoma)やLGLリンパ腫などの診断・治療を行ってきています。

フェレット・ウサギ・ハムスターのリンパ腫も診断・治療を行っています。


鼻の奥(咽頭)に発生したリンパ腫の治療前(左)と初回治療後(右)
咽頭リンパ腫  咽頭リンパ腫治療後  
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Posted by 駿河どうぶつの病院 at 18:49Comments(0)病気の話病気・治療の説明血液疾患・リンパ腫