2013年03月23日
陰睾という病気
本来は2つあるはずの精巣が本来ある場所(陰嚢の中)に片方しかない、
このような場合、殆どが陰睾(いんこう)という異常です。
潜在精巣や停滞精巣と呼ばれることもあります。
精巣は、
つまりお腹の中に形成されるのですが、
それが次第に陰嚢の中に移動してきます。
移動するのには、ワンちゃんだと生後30日以降、
場合によっては2~3ヶ月以降までかかることもあります。
性成熟に達する段階(おおよそ8~12ヶ月)で、
陰睾の場合、精巣が存在する場所はお腹の中であったり、
鼠径部(そけいぶ:後ろ足の付け根の内側)の皮膚の下であったりします。
ではこの陰睾、何か問題があるのでしょうか?
人間で高熱を出すと精子ができなくなる、と言われることがありますよね。
これが必ずしも正しいというわけではありませんが、
要は精巣は熱に弱い、ということです。
陰嚢の中に収まっている精巣より、お腹の中にある精巣のほうが温度が高くなります。
本来の位置に精巣がない場合、
精巣腫瘍になる確率が高くなります。
ですので、
子供をとりたい、という場合もあるかもしれませんが、
この疾患は基本的には遺伝病ですので、交配は薦めません。
13歳のコーギー君、おしっこのトラブルで病院へ来院となったのですが、
身体検査で明らかにお腹の中に何かデキモノがありました。
また精巣が本来の場所に1つしかない・・・。
検査の結果も合わせて考えると、
左側の写真はそのデキモノの超音波検査、
右側の写真はレントゲン検査です。
レントゲンでは黄色の○の中に、うっすらと白い丸い影が映っているのが
何らかのデキモノです。
検査結果と考えられること、さらに今後起こりうることなどを飼い主様に説明したところ、
飼い主様もしっかりと理解してくださり、手術を決心してくれました。
手術の日程を決めて、手術開始。
まず正常の位置にある精巣を摘出した後、
お腹を開けて、デキモノを確認。
そのデキモノをお腹の外に引っ張り出した様子が↓
手で握っている部分が精巣ですが、精巣が異常に大きくなり、ボコボコしています。
また赤い○の部分は血管や精管ですが、捻じれているのがおわかりになりますか?
ここが捻じれると精巣捻転といわれる状態です。
この子の場合、まだ捻じれ方がひどくありませんでしたが、
ひどくなると血管が捻れることにより精巣への血行が途絶えてしまい、
精巣が壊死(腐ってしまう)してしまいます。
この子は、精巣捻転が重度になる前の段階で手術でしたので、幸い(?)でした。
この精巣を摘出し、お腹を閉じて、皮膚を縫って手術終了。
摘出した精巣の写真ですが、上の大きな精巣が腫瘍化した精巣、下が正常な精巣です。
病理組織検査の結果では、
大きくなった精巣はセミノーマ(精上皮腫)というガンでしたが、
実は一見正常な方の精巣にも、ライディッヒ細胞腫(間細胞腫)というガンの一種が見つかりました。
高齢の子ではこのように正常に見えてもガンが発生していることが時々あります。
どちらも悪性ですので、今後も定期検診が重要です。
このコーギー君、現在手術後3ヶ月ほど経ちますが、
ガンや手術の影響は全くなく、元気にしてくれています。
ガンですので、転移の可能性がゼロではありませんが、
このまま何ともなく過ごしてくれるといいですね。